スポーツ中継の花形は何といっても実況アナウンサーだ。彼らは高度な描写技術を持った特殊な職人だ。だけど、この常識がひっくり返る日が近い。怖いよ~。
【いずれすべてのニュースはロボットが読む】
最近、NHKのニュース番組で機械音声が原稿を読むシーンが増えています。画面には「AI自動音声でお伝えしています」とクレジットが入っている。つまりAI(artificial intelligence)=人工知能を使った音声合成システムが、アナウンサーに代わってニュースを読んでいるのだけど、その前後に、人間のアナウンサーも違うニュースを読んでいるからややこしい。
確かに、初期の頃は聞いていて違和感がありましたね。声?というか音でしょうね、まるで月面で宇宙人が喋っているようなSFチックな機械音でした。それがここ数年で格段に進歩しました。語感が改善されゴツゴツ感が取れて、喋り全体の流れもスムーズ、仕事をしながらTV画面を見ないで聞いていると、滑舌のいいアナウンサーが普通にニュースを読んでいると思い込んでしまうほど。この完成度は驚きです。すごい。さすが年間技術予算700億円を誇る皆様のNHKだ。
報道局の管理職は、「業務の効率化が目的で、アナウンサーの仕事はなくなりません」と盛んに強調していますが、これは建前です。断言できる。そして、この技術が民放に波及すれば、全てのニュースを自動音声に任せてしまう報道番組が登場するのは時間の問題です。きっと「ニュースAI君」なんていうアバターが画面に登場して、ネクタイ締めてジャケット着て朗々と読むんです。絶対にトチらない。そのうちAI君には、会話アプリも標準装備されるだろうから、番組ニュースキャスターとゲスト評論家とスタジオで、堂々と掛け合いをするんだろうな、、、。すごい時代になるな。
【末恐ろしい新人アナウンサー】
ニュースのAI自動音声化は現実になっています。じゃあスポーツ実況はどうなんだろう。特に、芸術的な職人芸といわれるラジオのスポーツ中継なんか、人間に代わって放送席で喋る時代が来るのだろうか。きっと大方の常識人は「何を馬鹿なことを、原稿読みと実況は違うだろ!ロボットの出番なんかないよ」と冷ややかに笑うだろうね。確かに私も以前はそう思った。スポーツ実況のエキスパートとして職人の特権も永久不滅だと確信していた。しかし日進月歩は想像以上だったのです。
7年前のリオデジャネイロ五輪で細々とスタートしたデータ実験放送ですが、平昌五輪では、世界初の「自動実況ロボット」が登場しNHKのハイブリッドキャストで配信されました。さらに東京五輪では、実際の実況アナウンサーの声の特徴と呼吸テンポをAIが学習して、自然な口調とリズム感のあるスポーツ実況に仕上げている。ほ~お、こうなるとあと一歩ですね。
技術者がいま取り組んでいる最大のテーマは「人間の実況アナの癖を生理学的に徹底分析して、従来のコピー型から個性を持ったAI型アナを作ること」だそうだ。開発は、先鞭をつけたNHKから電通やトヨタ、大手ゲームメーカーに飛び火して既にビジネスベースで動いている。もちろん課題は多いけど、開発現場では、いつ地上波で「ロボット実況」が「新人アナ」としてデビューするのか話題になっているんです。そう、今はもう、ロボット実況の可能性を笑っている場合ではないのです。
【スーパーボウルが運命のカギ】
このコラムのタイトルの『自動音声がスーパーボウルを実況する日』は、日本より米国のYouTubeやNetFlixあるいはDAZNで解禁する確率が高いかもしれない。今年のスーパーボウル中継で放映された、たった5秒間の文字だらけの静止画CMを見た人はいるでしょうか。CM料は1回=1億2千万円。もちろん、放映された文章を視聴者が5秒間で全部読みきれないのは初めからわかっていました、でも話題になった広告が検索ラッシュで大ヒットして、世界的に有名な全米広告大賞のグランプリを獲得してしまいました。
では近い将来、もし、スーパーボウル中継の実況がAIだと分かったら、放送界と広告界はどう受け止めるでしょうか。大騒ぎになるはずです。AI実況に話題集中するのは容易に予測がつきますが、一方で、従来の中継スタイルの末路は悲惨でしょう。ひょっとしたらこの瞬間に全てのスポーツ番組から実況アナウンサーが姿を消すかもしれない。そのくらいスーパーボウルのインパクトは強い。そのチャンスをもう虎視眈々と狙っている広告マンもいるようです。じゃあ、旧態依然の放送現場はどんな危機感を持っているのでしょうか、大問題ですね。え~っと、話が長くなってしまったので、この続きはまた次回。
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