ダラス・カウボーイズのブランドン・オーブリーは、いまNFLで最も安定したキッカーの一人です。ルーキーイヤーから得点王となり、今季は60ヤード超のフィールドゴール(FG)成功数で歴代トップに立ちました。60ヤード以上のFGはNFLの選手でもなかなか決められません。創立100年超のグリーンベイ・パッカーズには、60ヤード超のFGを決めた選手は1人しかいません。
しかし彼のキャリアは、まったく別の場所から始まっています。ノートルダム大学ではサッカー選手としてプレーし、卒業後はMLSのトロントFCに入団しました。けれども数年でプロサッカーを離れ、次に選んだのはソフトウェアエンジニアの道でした。彼は大学でソフトウェア工学を専攻していました。
NFLへの転機は、なんと家庭のリビングでした。ある日テレビで試合を見ていたとき、NFLのキッカーがフィールドゴールを外しました。
その瞬間、妻が言いました。
「あなたなら、あのキックを決められるわ」
その言葉が、彼の人生を変えました。それからキックの練習を始め、やがてUSFLを経て、カウボーイズにたどり着きました。
オーブリー選手は、エンジニアとして培った冷静に分析して改善する考え方が練習に少し役立っていると語っています。風向きや芝の状態を観察し、キックの軌道を意識して修正する。そうした慎重さは、彼の成功を支えているかもしれません。
しかし、ソフトウェア工学が決してキッカーの必須条件ではありません。もしエンジニア経験がキックの上達を保証するなら、すべてのキッカーがコンピュータ工学を専攻しているはずです。現実には、キッキングにはその他にも理屈を超えた集中力と覚悟が必要です。
ブランドン・オーブリー選手の物語は、論理と感性のあいだにある「人間らしさ」の証明です。科学的でありながら、彼固有の人間性。
だからこそ、彼の60ヤード超のキックの数と距離が、これからどこまで伸びていくか注目していきたいのです。



