アメリカンフットボールは他の多くの球技と同じで、最終的に相手より1点でも多く得点が上回った方が勝ちです。
ですから、得点できる時に得点し、失点を防ごうとします。
しかし、状況によっては、あえて得点できる時にそうしなかったり、わざと失点することもあります。
一見おかしなことのように思われるかもしれませんが、これは
「最終的に相手より1点でも多く得点が上回る」
ためのものです。
日本時間の2023年2月13日行われた、第57回スーパーボウルで
「得点できる時に、あえて得点しない」
というプレーが出ました。
こちらのツイートの中の動画です。
試合終了まで1分54秒で同点、という状況です。
左から右に攻めるカンザスシティ・チーフスの背番号1のランニング・バック(RB)
ジェリック・マッキノン
は、ボールを受け取ると相手のエンドゾーンめがけて走るのですが、直前でわざと走るのをやめて止まりました。
転んだのでも、すべったのでもありません。
スライディングして、わざとエンドゾーンに入らなかったのです。
アメリカンフットボールのファンや選手にとっては、これは「定石」です。
ここでエンドゾーンに飛び込めばタッチダウンとなり、勝ち越しとなります。
動画を見ると、楽々エンドゾーンに入れそうに見えます。
しかしマッキノンはそうしませんでした。
それは…
残り時間1分50秒ほどを残して得点するということは、相手に反撃の時間を残すことになるからです。
この試合最終盤では、なるべく時間をつぶして得点する、というのが「定石」です。
ですので、マッキノンはあえてこの時は得点しませんでした。
緑色の相手のフィラデルフィア・イーグルスの選手もそれはわかっているので、早く得点して自分たちの攻撃をしたかったようです。
その証拠に、背番号23番の選手は、あえて全力でマッキノンを止めに行っていません。
結局この後チーフスは時間がかかるプレーを続けて、時計を残り11秒まで進めて、キックで得点をあげて勝ち越し。
イーグルスに攻撃権が移った時には、もう反撃の時間は残ってなく、チーフスがそのままリードして勝利しました。
MVPには先日書いた、パトリック・マホームズが選ばれました。
一見不思議に思えるこのプレーも、こういう理由があります。
しかし私が本当に書きたかったのは、このプレーの解説ではありません。
ここからが私がホントに今回伝えたいことです。
このマッキノンという選手は30歳のベテランですが、これまで辛酸をなめてきました。
2014年にNFLに入ったものの、そのチームには歴史に残る超一流のRBがいました。
なかなかチャンスが回ってこないので、他のチームに移籍しました。
しかし移籍してすぐに重傷を負いました。
結局2年間試合に出られませんでした。
苦労してカムバックしたマッキノンは、昨シーズン前にチーフスに移籍。
そして第57回スーパーボウルで、初めてスーパーボウルの大舞台に出場しました。
タイトルとは縁遠いキャリアを歩んできたマッキノンにとっては初めての檜舞台でした。
マッキノンでなくても、全世界で数億人が見ると言われるスーパーボウルで活躍してスターになりたい。
そう思うはずです。
そして試合終盤にそのチャンスがやってきました。
マッキノンがそのまま走って行けば、名誉ある
「スーパーボウルという大舞台でのタッチダウン」
となるはずでした。
しかしマッキノンは、チームの勝利のため、途中で止まりました。
まだスーパーボウルで目立った活躍をしていないマッキノンでしたが、自分の名誉より、スーパーボウルで勝つことを優先させました。
私は最初にツイートの動画を見て、
アメフトに馴染みのない人には不思議なプレーだろうから、このプレーの意味について、ネットに書きたい
と思いました。
この選手のことや、その心情までは考えませんでした。
しかしこのツイートの文章を読んで、気が変わりました。
ツイートの文章を和訳するとこんな感じです。
「ジェリック・マッキノンがこの状況で、何を想像したか、考えてみてください。
彼がこれまで苦労してきたこと、カムバックしてきたこと、夢見てきたこと、それに報われるすべてのことが 目の前にあったのです。
スーパーボウルでのタッチダウンです。
こんなチャンスは二度とありません。
しかし彼はチームを助けるために倒れました。
感動的です」
マッキノンの来シーズン、そしてその後のアメリカンフットボールのキャリアがどうなるかはわかりません。
ですが…
第57回スーパーボウルに、
チームのために個人の栄誉を捨てた選手がいた
ということはずっと覚えておきたいです。
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