【MLB】野球居酒屋“ぼーるぱーく亭” 4杯目の肴:「レギュラーシーズン162試合の価値とは?」

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4杯目の肴:「レギュラーシーズン162試合の価値とは?」

地区優勝はつらいよ?

 この一節は過去に店主(n.b.c.k.703)のブログ“ぼーるぱーく日記”に投稿したものですが、2024年レギュラーシーズンの開幕を迎えるにあたり、今一度考えをまとめる上で再構成を加え、 “ぼーるぱーく亭”のメニューに加えるものとします。ご了承のほど、お願い申し上げます。(https://ameblo.jp/nobaseballnolifemlbnpb/entry-12824409955.html

 昨年、2023年のポストシーズンゲーム。そのクライマックスであるワールドシリーズはテキサス・レンジャーズ vs アリゾナ・ダイヤモンドバックスの顔合わせとなった。両チームともワイルドカードシリーズを勝ち上がった、いわば“下剋上対決”。因みに、ワールドシリーズがワイルドカード同士の対戦となるのは2002年(アナハイム・エンジェルス vs サンフランシスコ・ジャイアンツ)、2014年(カンザスシティ・ロイヤルズ vs サンフランシスコ・ジャイアンツ)に次いで史上3度目。結果は皆さんご存じの通り、テキサス・レンジャーズが4勝1敗で初優勝。前身のワシントン・セネタース時代を含めて1961年の球団創設から63年目での初戴冠となった。

その前のステージ。両リーグの覇者を決めるALCS、NLCSのマッチアップは。

ALがヒューストン・アストロズvsテキサス・レンジャーズ。

NLがフィラデルフィア・フィリーズvsアリゾナ・ダイヤモンドバックス。

この4チームが鎬を削る構図となった。

 この中で地区優勝したのはアメリカンリーグ西部地区を制したヒューストン・アストロズのみ。ワイルドカードシリーズを勝ち上がった他の3チームは勢いそのままにディビジョンシリーズを突破した。厳しい条件をクリアしたテキサス、フィラデルフィア、アリゾナの強さには感服させられたが、一方でレギュラーシーズン162試合の価値とは?を改めて考えさせられた展開ともなった。

下剋上がチャンピオンへの近道?

 ワイルドカード組は、レギュラーシーズン終了後、すぐにワイルドカードシリーズを戦う。疲労困憊である事は確かだが、適度な緊張感と高いモチベーション、そして何より大事な“試合勘”をキープする事が出来る。地区優勝で第一シード、第二シードを勝ち取ったチームは、日程的にはゆとりを持てるが、昨年の場合だと実戦からは六日も遠ざかることになる。ここは、”逆ハンデ”となりはしないだろうか?

 ”セミファイナル”に3/4もワイルドカード組が勝ち上がる。本来、そのシーズンの最強チーム同士が雌雄を決する事が望ましいワールドシリーズで、各リーグの地区優勝以外のチーム同士が対戦する状況が生まれた場合、果たして健全な姿と言えるのか否か?3地区制をとっている現在のMLBでは地区優勝のチームより勝率が上の“ワイルドカード”が存在する事もある。だから店主はワイルドカードそのものを否定する者ではない。が、ディビジョンを制したシーズンの戦いぶり、激戦、接戦を勝ち抜いた末の栄冠はもう少し評価されても良いのではないか。そんな風にも考える。しかし。2023年のワールドシリーズはAL勝率5位のテキサス・レンジャーズとNL勝率6位のアリゾナ・ダイヤモンドバックスの“頂上決戦”となった。明らかにシーズン最強チーム同士のマッチアップ、とは言い難い。

 ここで話をリーグチャンピオンシップシリーズの前、ディビジョンシリーズに戻して考えてみよう。地区シリーズは両リーグの覇者を決めるリーグ優勝決定シリーズの出場権をかけて争われ、5試合の対戦で先に3勝した方が勝ち抜けとなる。短期決戦のポストシーズンゲームにあって、ある意味、一番スリリングなステージともいえる。3連勝で一気に決着を見る事も少なくないディビジョンシリーズ。ポストシーズンに出てくるような強いチームならば、このくらいの連勝はシーズン中に何回かはクリアできているはず。”いかに相手よりも早く流れを掴むか”がカギとなるだけに、初戦の入り方、特に先取得点は大きな意味を持つ。また八面六臂の大活躍でチームのブースターとなるシリーズ男の有無で勢いに差が出る事もある。

 昨年の地区シリーズを紐解くと。NLではリーグ勝率2位のドジャースが同6位のダイヤモンドバックスに、ALでは勝率1位のオリオールズが同5位のレンジャーズにスイープを喰らっている。2カードともGAME1で先制したのはDバックス、レンジャーズだった。特にDバックスはNLDSの3試合全てで先制し逃げ切りに成功。初戦の入り方が奏功し一気に波に乗って、シーズン100勝をクリアしNL西部地区を独走で勝ち抜いたドジャースを撃破した。残り他の2カードもGAME4までにシリーズが決着。待たされたシード上位のチームはことごとく、勝ち上がってきた下剋上組の勢いに飲み込まれた格好だ。

 さらに、同地区対決となったナショナルリーグのLAD-AZを見てみると。スタンディングでは1位LADと2位AZのゲーム差は実に16.0。レギュラーシーズンでの対戦成績もLADの8勝5敗。いずれもドジャース有利のデータが揃っていた。その上。ドジャースは昨シーズン、ホームで53勝28敗:勝率.654と無類の強さを誇っていた。ディビジョンシリーズはドジャースタジアムで開幕し2試合を消化、1日移動日を設けてチェイスフィールドで2試合、2勝2敗のタイとなれば再び舞台をロサンゼルスに移してGAME5が行われるスケジュールであった。地の利を生かせるはずのホームで開幕2連敗を喫してしまったドジャースは、流れを変えられないままGAME3で終戦となった。

アリゾナ・ダイヤモンドバックスのホーム:チェイスフィールド

ワイルドカード“枠”拡大。ポストシーズン“12チーム制”がもたらしたものとは?

 現行の“ワイルドカードシリーズ”が始まったのは2022年から。実施されて2年で結論を出すのは早計、とお叱りを受けるかもしれない。しかし。その初年度となった2022年のポストシーズンゲームでも、ワイルドカードで勝率上位のチームが下位に喰われる現象が両リーグで3件も発生している。Fall Classic(World Series)への第一関門たるワイルドカードシリーズは両リーグで4試合(各リーグで地区優勝の勝率最下位と第三ワイルドカード、第一と第二ワイルドカードの組み合わせ)、3試合で先に2勝した方が勝ち抜けのシステム。超々短期決戦だけに一瞬でも気を抜けば奈落へ真っ逆さま、まさに“tightrope walking”である。この生き残りを懸けた究極のサバイバルマッチにおいて“下が上を叩く”という兆候は2年前から確認されていた。そして昨年も、このシリーズでは勝率下位から2チーム(ALはレンジャーズ、NLはDバックス)がディビジョンシリーズへと駒を進めている。

 その次なるステージ。2022年のディビジョンシリーズではALは勝率上位が順当に勝ち抜けたがNLではワイルドカードシリーズを勝ち上がった2チームがリーグチャンピオンシップシリーズへと駆け上がっていった。この年、NLではアトランタ・ブレーブス、ニューヨーク・メッツ、そしてロサンゼルス・ドジャースの3球団がレギュラーシーズンで100勝をクリア。特にドジャースは111勝で勝率は.685と西部地区を圧倒していただけに、リーグチャンピオンシップ手前で消えてしまう事など誰一人として想像した者はいなかっただろう。その衝撃の大きさは、ある意味、野球ファンを震撼させたほどだった。

 上記の事例は、どんなに強いチームであっても”試合勘”の欠如は如何ともしがたい、という証左に他ならない。試合勘とは勝負勘とも言い換えることが出来るだろう。どんなに練習試合を消化しても、調整の場、という意識が根底にある以上、この勝負勘を研ぎ澄ますことは難しい。ギリギリの精神状態でぶつかり合う真剣勝負の中でしか維持できないもの、と店主は考える。その意味では、ワイルドカードシリーズという超々短期決戦をチーム全体が最大集中で勝ち上がる中で培われた“自信と勝負勘”が勢いというファクターに変換されて、持てる力以上のパフォーマンスを生み出した結果、 “下剋上”を手繰り寄せた、と解釈すればこの超常現象並みのドラスティックな展開に一応の説明はつく。だが、やはり納得はし難いのが実情だろう。

第1、第2シード回避が得策か?

 レギュラーシーズンとポストシーズンを完全に分けて考える。地区優勝は1年間162試合を戦って得られる栄誉だが、ここにはフォーカスしないで、敢えて地区優勝を目指さず端からワイルドカードを狙い、試合勘を落とさずポストシーズンを勝ち抜こうとする、そんなチーム戦術も肯定される事になりかねない。もちろん。開幕時にワイルドカード狙いでシーズンを戦おうとするチームは、まず存在しない。再建途上にある所は厳しいとしても、チャンスのある限り地区優勝を目指して162試合の遠大な大航海へと抜錨する。しかし。開幕前からある程度の戦力差は各チーム計算に入っているはず。冷静に見て地区優勝は難しそうでもワイルドカードなら何とか、というチームは複数存在する。 “巨大戦力”や円熟期のメンバーをそろえたチームに自軍のエース級ピッチャーをぶつけず、先発3番手、4番手を起用したり、 “ブルペンデー”で凌ぐ。取れたら儲けもの、落としてもダメージは最小限に、その他のチームに取りこぼさないような戦い方を是とする監督やGMがいたとしたら。考えたくはないが、可能性として0ではない事も否定はできないと思う。その場合。この考え方がトレンドとなればレギュラーシーズンの価値は失われてしまうだろう。

 昨年のケースを具体例として考察すれば、ドジャースが所属するNL西部地区、ブレーブスが籍を置くNL東部地区のそれぞれ他の4球団が開幕から横綱相手の“厳しい勝負”を避けてローテーションを編成する。狙いはあくまでワイルドカード。レギュラーシーズンをいかに効率よく“泳いで”ポストシーズンへつなげるか。そして試合勘を落とさずに勢いに乗るか。といったある意味“合理的”な思考に走る所もこの先、出ないとは限らない。2022年、2023年の結果を踏まえて最適解を弾き出そうと思考を巡らすスキッパーが出現しない事を祈るばかりだが…。埋め難い戦力差があっても、ジャイアントキリングを起こそうと闘志前面、ポテンシャル+気迫=120%の力で戦う姿にファンは歓喜し、胸打たれる。名勝負の数々はそんな状況下で度々生まれてきた。それが失われてしまうと、レギュラーシーズンは効率だけを追求した無味乾燥で退屈な時間になってしまうような気がしてならない。店主はそうなってしまう可能性を危惧している。

今一度、レギュレーションの再考を!

 であるならば、防止策を考える必要があるのかもしれない。レギュラーシーズンを安定した強さで勝ち抜き地区優勝を成し遂げた両リーグの6チーム。取り分け.600を超える勝率で100勝をクリアしたチームには何らかのアドバンテージが与えられても良いのではないだろうか?NPBにおけるクライマックスシリーズ・ファイナルステージの1勝分のアドバンテージが正解か否かは別としても、各地区をトップでゴールテープを切った勝者が不利になるような条件は撤廃すべきと考えるのだが。

 例えば。日程的には少し間延びしてしまうのだが、ワイルドカードシリーズ終了後、1週間くらいスケジュールを空けてディビジョンシリーズをスタートし、そこまでの流れを一旦リセットさせるとか。ディビジョンシリーズは勝率上位チームのホームで最大5試合を開催するとか。或いは、ディビジョンシリーズを7試合制(4戦先勝方式)に変更し、逆にリーグチャンピオンシップシリーズを5試合制にするか。今のままのレギュレーションが続いて、昨年、一昨年と同じような展開を繰り返せば、ファンは白けてしまい、野球離れに一層の拍車がかかることになりかねない。決して下剋上を否定するものではないが、1年の総決算、ワールドシリーズは、両リーグの一番強い者同士が戦うべき。この部分は譲れない。

 韓国シリーズ:ドジャース vs パドレスで開幕したMajor League Baseball2024。大谷翔平選手、山本由伸投手が加入したロサンゼルス・ドジャース。日本の両雄獲得以外にも、昨シーズン26本塁打を放ちマリナーズからFAとなっていた強打の外野手、テオスカー・ヘルナンデスと契約。タンパベイ・レイズからトレードで獲得していた剛腕投手のタイラー・グラスノーと新たに5年の契約を結ぶなど、今季に向けた補強の総額は12億2600万ドル(約1772億5000万円)とケタ違いの金額を注ぎ込んだと言われている。下馬評ではブッチギリの地区優勝候補筆頭で、小さな懸念材料はあるものの大きな死角は見当たらない。店主も、どこが“Stop the Dodgers”の一番手になるか?に目が向いている(恐らくジャイアンツかと)。昨年、一昨年のようにダントツで西部地区を制したとして。一抹の不安は現行のレギュレーション、に尽きる。消化試合が格段に少なくなる、というメリット以上に浮き彫りとなったデメリットを、コミッショナーのロブ・マンフレッド氏はどう考えているのだろうか?

ロサンゼルス・ドジャースのホーム:ドジャースタジアム

 162試合。長丁場の1年が始まった。勝負の8月。ヒリヒリする9月を越えて、10月の最終決戦まで。存分に楽しめて、誰もが納得できるシーズンの構成、その再構築が喫緊の課題であると店主は考えるのであります。

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この記事を書いた人

n.b.c.k.703のアバター n.b.c.k.703 フリーランス/スポーツアナウンサー・MLB Journalist

1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV)
1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当
琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中
スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA)
他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり
MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)

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