【高校野球】野球居酒屋“ぼーるぱーく亭” 1杯目の肴「Defensive? or Offensive?」

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1杯目の肴「Defensive? or Offensive?」

 ほぼほぼ半年前の事、季節感のないテーマで恐縮至極ながら、記念すべき“ぼーるぱーく亭”の1杯目は、長年現場を経験させて頂いている高校野球のお話に、との思いに至りました。暑かった真夏の記憶、その糸を手繰り寄せ、徒然なるままに筆を走らせたこの一節を、1杯目の肴として当店のお品書きに加えます。

 高校野球中継の実況を担当させて頂いて、今年で丸30年の節目を無事に迎える事が出来た。中継に携わってくださったスタッフの皆様、ゲームナビゲートに金言や気付きのヒントを授けて下さった解説の先生方、皆様のお力添えがあればこそのマイルストーン。私一人だけでは決して見る事の出来なかった景色に導いてくださった諸先輩方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 30年。その遠大な時間の中で、最も印象に残っている出来事。それは2020年の夏、選手権大会が新型コロナウイルスのパンデミックで消滅してしまった事である。“戦争以外でこんな事が起こるのか・・・”絶句された、ある監督の苦悶の表情を忘れることはできない。

 しかし。その苦難を、高校球児たちは見事に乗り越えた。徐々にではあるが元の日常に戻りつつある中で自分を見つめなおし、改めて野球が出来ることに喜びと感謝を感じながら今年もスタジアムで白球を追った。そんな彼らの眩しい夏を5試合の実況という形でサポートさせていただき、節目の夏は終幕となった。

  試合前の監督取材の際“チーム作りで大事にされている哲学は?”という質問を最後にさせて頂いている。今年もそのパターンはしっかり踏襲した。少し考えながら言葉を選びつつ、各校の指揮官は質問に答えてくださるのだが、“守備重視!しっかり守って流れを掴み攻撃のリズムを作る”派と、“とにかく打って打って打ちまくる。主導権を握って流れを相手に渡さない”派に、指導哲学は分かれる。実際には7:3で前者の方が多い、というのは”ぼーるぱーく亭店主”(n.b.c.k.703)の実感ではあるのだが。

 一見、まったく正反対の事を表しているかのような野球哲学。しかし、最近になってこれは“同じ事”を言い表しているのではないか?という事に気づいた。

 守備重視、という旗印を掲げる監督に“その心”を伺うと。“守りと言っても受け身ではありません。一歩目を早く動き出す。しっかりボールにチャージする。エラーは仕方がない。野球にミスはつきもの。その失敗を引きずらないように気持ちを切り替える。そしてミスは全員でカバーする”という前のめりの姿勢が鮮明になる。つまり、消極的な防御一辺倒、という意味の守りではなく攻めの守備を貫け!という言葉に置き換わる。その攻めの姿勢が攻撃に転じた時、チームに勢いと流れを呼び込む。 

 打ちまくる、という御旗のもとに指揮を執る監督の“その心”とは。“まず好球必打。いいボールは積極的に手を出していく。そして。出塁したら相手の隙を見逃さず常に先の塁を奪う気持ちを持つ。チャンスになったら状況を考えたバッティングで得点を奪い主導権を握る”言わずもがな。積極果敢な攻めの姿勢で一気呵成に相手を土俵際まで追い詰めろ!という意図が透けて見える。

 守備重視も攻撃型も、つまるところは同じ、“超攻撃的な姿勢”を貫いている、という事だ。野球にはイニングの表裏があるように、監督の哲学も表と裏、陰と陽が存在する、と思う。しかし物事の事象は常に表裏一体、突き詰める真実は同じ、という事の証でもある。野球もまた、例外ではない、という事なのだろう。  

 この夏。未だかつて経験したこのない猛暑・酷暑・炎暑の中。終盤にもつれ劇的なエンディングを迎えた試合が数多くあった。それは。晴れ舞台に臨んだ球児たちが、どんなコンディションにも集中を切らすことなく、チーム一丸となって勝利を目指した、その真っすぐな気持ちがぶつかりあった結果が生み出したドラマが、そうさせたのではないだろうか。

 ほんの一瞬でも後ろ向きな考えが頭をよぎれば一気に土俵を割っていたかもしれない。どんな状況になろうとも前だけを見据え戦う姿勢を崩さなかった。それは取りも直さず、対戦両校の監督哲学が攻めの姿勢を大事にし、攻撃時も守備の時も常に攻め続けたアグレッシブな野球を選手たちが見事に体現してみせた。拮抗した多くのゲームの裏には、こんな理由があったのかもしれない。

 各校の監督はこうも言う。“野球だけではなく、学校生活、ひいては社会に出た時の心構えも教えています”困難に直面しても逃げずに立ち向かう攻めの姿勢。野球で培われ仲間と共に戦った夏に、心に芽生えた勇気の火。それは消えることなく、きっと、彼らが社会の大海原に飛び出す時も赤々と灯り続けている事だろう。数々の激闘を振り返り、そんな思いを一層強くした。晴れやかな気持ちにさせてくれた彼らに感謝を覚えながら、地方大会から続くドラマの集大成、聖地・甲子園の熱戦に引き込まれた、2023年の夏、であった。

 時は流れ、季節は冬。年末が迫り世の中が喧騒に包まれる今この時も、全国の球児たちは直向きに日々の鍛錬に励んでいる。次のステージを目指し、そのドラマの主役となるために。

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この記事を書いた人

n.b.c.k.703のアバター n.b.c.k.703 フリーランス/スポーツアナウンサー・MLB Journalist

1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV)
1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当
琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中
スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA)
他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり
MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)

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