先日のF1イギリスGPではスタート直後にアルファロメオの周冠宇のマシンが横転し、ひっくり返ったままランオフエリアを滑走、グラベルで跳ねてタイヤバリアを飛び越え観客席前のキャッチフェンスに叩きつけられるという壮絶なアクシデントに見舞われました。
しかし、誰もが肝を冷やした激しいクラッシュにも関わらず、周はほぼ無傷でレース終盤には検査のために搬送された病院からサーキットに戻り、元気に立ち話をする姿も見られました。
今回の周冠宇のクラッシュを始め、コクピット付近が危険に晒されるクラッシュでは近年、ドライバーの頭部を守る装置「Halo」が注目されますが、過去の悲劇を教訓にしてきたF1を始めとするモータースポーツでは、ドライバーを守る安全対策が多数講じられています。
今回はドライバーを守るためにどのような安全対策が講じらてきたか、いくつか紹介していきたいと思います。
シートベルト
現代ではレース競技だけでなく、一般公道でもシートベルトを締めるのは「常識」ですが、かつてはシートベルトがない時代がありました。
かつてのレーシングカーはクラッシュ時の火災が起こりやすく、特にF1を始めとするフォーミュラカーは運転席が狭いため、シートベルトを装着すると車両火災発生時に脱出が遅れてしまうという理由から1960年代後半まではシートベルトを装着していなかったのです。
しかし、徐々にレースシーンでもシートベルトの有効性が認められ始めると一部のドライバーの啓発活動などから普及が進み、F1でも1972年に6点式のフルハーネスの装着が義務化されました。
ヘッドレスト(ヘッドプロテクター)
ドライバーの頭部を取り囲むU字型のパーツです。
1994年にアイルトン・セナ、ローランド・ラッツェンバーガーなどの重大事故が多発したことをきっかけに安全対策が見直され、1996年からドライバーの頭部を守るために導入されました。
F1マシンのボディパーツは主にカーボンファイバーが用いられますが、ヘッドレストにはカーボンの型にポリカーボネート、発泡素材が組み合われており、衝撃を吸収できる様になっています。
HANS
HANSとは「Head and Neck Support」の略で、ヘルメットに装着してドライバーの首や頭部を保護する装備です。
ヘルメットとテザーで繋いたデバイスを肩にかけ、4点式シートベルトで固定することで、衝撃時に頭部が揺すられてしまうことを防ぎます。
HANSという名称は実は開発企業の商標で、システム事態の正式名称は「FHRシステム」((Frontal Head Restraint systems)と呼びます。
激しいクラッシュに見舞われた際、シートベルトに固定されている身体は無事でも、固定されていない頭部が動いてしまうことによって頭や首に致命傷を負うことを防ぐため、1990年代に開発されました。
当初はアメリカを中心に普及が進み、F1では2003年から装着が義務付けられました。
Halo
ドライバーの頭部が露出するフォーミュラカーでは、上記の対策が施された上でも、アクシデントの際に飛来したパーツや乗り上げた他車がドライバーに直撃する痛ましい事故が起こっていました。
それを防ぐために、導入されたコクピットの頭部保護装置が「Halo」です。
F1で2018年から導入されると、各国のフォーミュラレースにも広まって行きました。
Haloは一本の支柱と、それを取り囲む円形のバーをコクピットを囲むように設置。
レース中のあらゆるアクシデントから頭部を守ります。
素材は強固なチタニウム素材(F1の場合)が用いられており、「2階建てのロンドンバスを乗せても耐えられる」ほどの強度を持っています。
F1では先日の周冠宇を始め、昨年のイタリアGPでマックス・フェルスタッペンと接触したルイス・ハミルトンや、2020年のバーレーンGPでガードレールを突き破るクラッシュを喫したロマン・グロージャンなども、このHaloが無ければ致命傷を負っていたのではないかと言われており、その効果が実証されています。
まとめ
これらの安全措置はすべて過去の痛ましい事故を教訓に生まれて来ました。
今回はドライバーに直接関わる安全対策を紹介しましたが、車体の衝撃吸収構造や、火災防止の燃料カット技術など、F1を始めとするレーシングカーは遥かに安全になっています。
このような安全対策がされていることで、私達はモータースポーツを安心して楽しむことができていることを忘れずにいたいですね。
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