【アメフト】「アメリカで一番つきたくない仕事」と言われる「蹴るだけの選手」キッカー

「アメリカンフットボール」は、「フットボール」と言うわりには、ボールを蹴ることより手で扱うことが圧倒的に多いスポーツです。
ボールを蹴るのは「キッカー」または「パンター」と言うポジションの選手だけ。
そのうち、今回は「キッカー」について書きます。

キッカー(略称「K」)は別名プレイスキッカー(「PK」)とも言われます。
手に持っているボールを落として蹴るパンター(「P」)と区別するために、ボールを地面において(プレイスして)蹴る選手をプレイスキッカーと呼ぶのです。
普通はキッカーと呼ばれます。

キッカーの仕事は、地面に置いたボールを蹴ることです。
プレイを始めるときのキックオフ、タッチダウンの後のボーナスポイントを得るときのキック、そしてフィールドゴール(FG)で得点を得るときにフィールドに出てきて、地面に置かれたボールを蹴ります。
人数が少ないチームは別ですが、キッカーは他のポジションを兼任することはなく、蹴ることだけに専念する選手がほとんどです。
NFLでは、この「蹴るだけの仕事」で6億円の年俸を得ている選手もいます。

この
「ボールを蹴るだけの簡単なお仕事」
だと思われがちなキッカーは、一方で、
「アメリカで一番つきたくない仕事」
とも言われています。
それは、試合の勝敗を決める重要な場面で出てきて、当たり前のように得点を成功させることが期待されるポジションだからです。
それだけに、ものすごいプレッシャーがかかります。
成功して当たり前、失敗したらボロカスに言われるようです。
そして、平均して他のポジションの選手より年俸は安いです。
ですから「つきたくない」と言われるのでしょう。
実際そんなことはないようですが、過酷な状況に置かれることや、年俸の安さから、皮肉を込めてそう言われているだけです。

米時間2023年1月14日に行われたNFLのプレイオフ、
ジャクソンビル・ジャガーズ 対 ロサンゼルス・チャージャーズ
の試合は、そんなキッカーのプレッシャーが手に取るようにわかる仕事でした。

試合は残り時間3秒、ジャガーズが28-30で負けている場面で、ジャガーズのキッカー、
ライリー・パターソン
がFGを決め、31-30となったところでタイムアップとなり、ジャガーズの逆転勝利に終わりました。
そのシーンがこちらです。

FGの難易度は、ボールが置かれた場所からゴールポストまでの距離で表されます。
パターソンが決めたのは36ヤードのもの。
NFLのキッカーであれば目をつぶって蹴っても入れなければいけない、簡単な距離のものです。
しかし、この時のパターソンにとっては、違う状況での50ヤードのもののほうが簡単に思われたかもしれません。

この試合、ホームチームのジャガーズは前半途中までに0-27と一方的にリードされました。
アメリカンフットボールは1回の攻撃で最大8点を入れることができます。
と言うことは、この8点を入れる攻撃を4回成功させないと逆転できないのです。
1回の攻撃で8点を入れるのは難しく、通常は7点をとって満足することが多いです。
それを4回成功させなければいけない上、さらに相手を無得点に抑えないと逆転できないのです。
アメフトは野球と同じで、自分たちの攻撃が終わると、次は相手が攻撃します。
前半途中で27点も入れたチームを無得点に抑え続けるのはとても難しいでしょう。
とにかく、27点差は、逆転勝ちするには絶望的なスコアでした。

しかしジャガーズは、それに近いことをやってのけました。
前半の終わりに7点を入れると、試合終了残り5分までにもう21点を挙げ、それまでに相手の追加点を3点に抑え、28-30としました。
その後は両チーム無得点のまま、残り3秒で、勝敗をパターソンに委ねる展開になりました。

前述の通り、36ヤードのFGは数字だけ見れば短い距離なので簡単なものです。
しかし、これを外せば負けてジャガーズのシーズンは終了します。
さらに地元で、このようなクレイジーな展開で、観客席にもただならぬ空気になっていたでしょう。
その中で決めるのは、いくら短い距離とは言えものすごいプレッシャーだったはずです。

上の動画と同じシーンでののもですが、もう少し前後が長い動画がありました。
これを見てもらえれば、どれだけパターソンにプレッシャーがかかっていたかがわかると思います。

準備をしながら、首から下げたネックレスの十字架をさわっています。
この動画では一度しか見えませんが、この試合を生でネットで見ていた私には、その前に何度かさわっていたような記憶があります。
いつものルーティーンかどうかはわかりませんが、プレッシャーが伝わってきます。
そして、蹴ろうとしたところで、審判がそれをやめさせました。
相手のチームがタイム(正確には「タイムアウト」)をとったのです。
これは「アイシング・ザ・キッカー」と言われるもので、キッカーの集中力をそぐ目的でよく行われる、言い方は悪いですが、いやがらせ行為です。
しかし、ルールで禁止されているわけではなく、相手だって勝ちたくて一生懸命なのです。
キッカーは、相手がそう言うこともやるかもしれない、と言うことは意識していますので、この行為がもとでFGを失敗することはそんなに多くはないように思います。

仕切りなおして今度は本当に蹴りました。
短い距離なので、ど真ん中に決まることが多いのですが、右側ギリギリでバーの間を通過しています。
逆転!!
そして試合終了!!

パターソンが他の選手たちに抱えられて祝福されています。
彼は「ヒーロー」になりました。
「つきたくない仕事」ですが、このような大きなやりがいがあります。
ですから「あこがれの仕事」なのです。

これとは逆に…
有名な失敗としては、1991年に行われた第25回スーパーボウルでの
スコット・ノーウッド
の例があります。
バッファロー・ビルズは1点ビハインドで残り8秒の場面。
ノーウッドは47ヤードのFGを蹴ることになりました。

47ヤードはそんなに簡単な距離ではないですが、逆に「超」がつくほどは難しいものではないです。
ノーウッドのキックは画面左側、ノーウッドから見れば右側にそれて失敗しました。
ビルズはニューヨーク・ジャイアンツに、19-20で敗れました。
それでも、バッファローに戻ってファンとのイベントに出場したノーウッドには
「I love Scott!!」
の大歓声がファンから贈られたそうです。
ノーウッドがこれまでバッファロー・ビルズのために何度もFGを決めたことを忘れたいなかったのです。

ジャクソンビル・ジャガーズの2年目のキッカー、ライリー・パターソン

私だけではないと思いますが、「蹴るだけの選手」がアメリカンフットボールにはいる、と聞いて驚いた人は少なくないと思います。
しかし、期待通りに「蹴る」と言うことは、とても難しいのです。

あるサイトには
「アメリカ3大つきたくない職業 。
大統領、MLBのクローザー、NFLのキッカー」

と書かれていました。
本当はどれもあこがれの仕事です。

「つきたくない仕事」
でもあり「憧れの仕事」でもあるキッカーで成功するのか失敗するのか…
ライリー・パターソンはまだ2年目。
結論が出るのはこれからです。

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この記事を書いた人

草場 謙一のアバター 草場 謙一 アメフト系ブロガー

主にアメフトのことを書いているブログ
「MAJIK MIRROR」( http://packmania.blog61.fc2.com/ )
の中の人。
日本でアメフトを人気スポーツにできないものか、と考えブログを執筆中。

アメフトの歴史を調べてブログに書いている時が一番の幸せ。

マイナースポーツであるアメフトのファンの、
「周りにアメフトの話をする人がいない問題」
をなんとかするために立ち上がったYouTubeチャンネル「レッツハドル」の一員。

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