はじめに
近年、世界のスポーツ界では「メンタルパフォーマンス」が競技力向上の重要な柱として急速に存在感を増しています。メンタルが安定していると判断力が上がり、集中力が持続し、さらにはケガの発生率も下がり、病気にもなりにくくなる——「常識」とまでは言えないまでも、こうした研究結果が複数報告されているからです。
日本プロ野球界では、福岡ソフトバンクホークスが借金7から日本一に登りつめたことが話題になりましたが、借金6の段階で伴元裕メンタルパフォーマンスコーチをチームに帯同させました。このことが日本一の要因のひとつと評価され、来季はメンタル専門家の増員まで計画するほど力を入れています。
では、アメリカンフットボールの最高峰・NFLではどうか。実は2019年にNFLとNFL選手会(NFLPA)が合意し、各チームが行動健康のチーム・クリニシャン(メンタル専門家)を少なくとも週8〜12時間施設に配置することが義務づけられています。つまり専門家の存在自体は全チームの”標準装備”です。
しかし、そんな中でも際立っているチームがあります。それが ヒューストン・テキサンズ です。
テキサンズは「義務化以上」をやっている
多くのチームが専門家を「スタッフ名簿に置いている」レベルにとどまる一方で、テキサンズは専門家をオンサイト(常駐)させ、ほぼ毎日選手と関わる体制を整えています。
これは単なる相談窓口ではありません。
- 練習後のフィードバック
- ストレスマネジメントのトレーニング
- 試合前のパフォーマンスルーティン
- 選手の家族サポート
- 怪我から復帰する際の心理的ケア
まさに、「いつでもそこにいるメンタルチーム」。これはNFL32チームの中でもかなり積極的な取り組みといえます。
メンタル体制を強化したテキサンズ、成績はどう変わったか?
象徴的なのは、このメンタル体制を強化したタイミングと、近年のチーム躍進が重なっていることです。
テキサンズはここ数年、名将デメコ・ラインズの就任、QB C.J.ストラウドの加入といった戦力的な追い風と合わせて、「チームのまとまり」「若手の伸び幅」「試合終盤の粘り」が顕著に増しました。特に2023〜2024年はリーグ全体からも「若いのに落ち着いている」「チーム文化が成熟している」と評価されました。
もちろん、成績がすべてメンタルによるもの、と言い切ることはできません。ただ、
● 若手QBがルーキーイヤーから高い安定性を示した
● 怪我からの復帰がスムーズ
● チーム全体の”集中力のムラ”が減った
こうした傾向は、専門家が日常的にチームに入り込んでいる効果と考える専門家も少なくありません。
なぜここまでメンタルが重視されるのか
昨今のスポーツ科学では、メンタルの健康度はパフォーマンスだけでなく、身体の耐久性にも影響するといわれています。
ストレスが多いほど、
- 筋肉の緊張が抜けない
- 睡眠の質が下がる
- 免疫が落ちる
- 怪我後の回復が遅くなる
といった悪影響が出ます。
つまり、メンタルケアは競技成績だけでなく 「選手寿命」 そのものを延ばす投資でもあるのです。
この波はスポーツ界を超えて広がる
福岡ソフトバンクホークス、NFL全チーム、そして中でもテキサンズのように先進的な取り組みを行う球団——。こうした動きは、今や”流行”ではなく明確な”潮流”と言える段階に入っています。
そして、これはスポーツだけの話ではありません。
競争が激しい現代社会において、「メンタルが整っている人は、結果を出し、ケガも病気もしにくい」という法則は、一般企業にもそのまま当てはまるように考えられます。一般企業が社員のメンタルを守ることが、業績をあげることにつながり、個人の幸福にもつながるように感じられます。
極論すれば、テキサンズのような「常駐メンタルチーム」が、企業や組織でも普通になる未来が訪れるかもしれません。
スポーツが先に踏み出し、その価値を証明していくことで、私たちの社会全体にも新しい健康のスタンダードが広がっていく。
メンタルパフォーマンスの研究が進む今、それは決して夢物語ではないと考えます。



