【高校野球】野球居酒屋“ぼーるぱーく亭” 7杯目の肴:大量失点回避の心得~スローイングエラーを防げ!~

目次

7杯目の肴 : 大量失点回避の心得~スローイングエラーを防げ!~

32年目の夢舞台

 2024年夏。第106回全国高等学校野球選手権・西東京大会。店主は32年目の実況に臨んだ。勝利の為に、チームの為に、仲間の為に、懸命に白球を追う高校球児の姿を、しっかりと記憶に刻む。高校入学という縁が結んだナインと言う名の鉄の結束。人生で最も濃密な時間を過ごし、やがてそれは彼らにとってかけがえのない絆となった。鉄の結束の元、苦楽を共にした仲間との時間を一日でも、一時間でも、一分一秒でも長く過ごすために、いや、この蒼い時を永遠に終わらせたくない強い想いが、炎暑のスタジアムで一丸の攻防へ彼らを突き動かした。今年もそんな選手たちに、実況席から声の限りエールを送り続ける機会に恵まれた。野球好きにとって最高に幸せなひと時。暑い夏を球児たちと共に駆け抜けた。

 店主は実況前、担当するゲームの対戦両校の監督さんに取材をお願いしている。その取材で、ある高校の監督さんのお話に感銘を受けた。そのチームは、普段の守備練習の時、“スローイングの強化に重点を置いている” との事だった。 “捕球エラーは仕方がない。問題は、その後、慌てて悪送球をしてしまう事なんです” 監督さんは穏やかに語り始めた。 “エラーは野球につきもの。ただ連続して出てしまうと大量失点の恐れがある。それを防ぐには、スローイングをしっかりするってことだと思うんです。送球エラーが出なければ、傷口は広がらない。仮に走者を出しても、その後をしっかり守れば最少失点で切り抜けられる” 確かにそうなのだ。捕球エラーで慌てた選手が一塁に悪送球、からのピンチが広がり、チームが徐々に浮足立って、結果、大量点を奪われる。所謂 “ビッグイニング” を献上してしまうと試合の流れが完全に相手に傾いてしまい、苦しい戦いを強いられ劣勢に追い込まれる。 “あの1プレーが出なければ” というシーンをこれまで何度も目にしてきた。悔やまれる “あの1プレー” を防ぐ=スローイングエラーをなくす事。監督さんのお話は実に明解で分かり易かった。その練習方法は…。

 脱力した状態で、合図をきっかけにスローイングを行う。もしくは、椅子を用いて、利き脚(右投げなら右足、左投げなら左足)を乗せた状態でボールを投げる、といった送球動作の反復練習。 “これは何を目的としたものですか?” 店主の問いに、 “リリースポイントを正確につかむ事です” とお答えを頂いた。 “リリースポイントがブレるから悪送球になる。どんな体勢でもしっかりボールをリリース出来れば、スローイングエラーは格段に少なくなると思うので、普段の練習に取り入れています” 野球の基本はキャッチボール。ここがしっかりできていなければ、応用編には進めない。正しいフォームで、正しいリリースポイントから、正しい的にめがけてボールを投げる。しかし。これはあくまで基礎中の基礎。実際のプレーの中では、正しいフォーム、いやそれどころか満足な体勢からボールを投げる事が出来ないケースも多々ある。そんな時でも、リリースポイントさえしっかりしていれば、傷口を広げずに済む。監督さんにお話を伺い、指導を受けてきた生徒たちがどんなプレーをするのか、ワクワクしながら放送席へと向かった。

日頃の成果、練習は嘘をつかない!

 結果から先にお話しすると。そのチームは勝利を収めた。店主が注目した失策数は2個。うち一つは外野手の捕球エラー。残る一つは。一死1、3塁の場面で、1塁走者の盗塁を2塁で刺そうとしたキャッチャーの悪送球で3塁走者が生還した、というプレーだった。監督さんが危惧していた送球エラーが出てしまったワケだが、実は“スローイングエラー”はこの1つのみ。ゲーム中、内野に何度も痛烈な打球が飛んだ。しっかり捕球できなかったケースも数回あった。しかし、選手たちは慌てずに、ボールを拾い直すと一塁へストライクのボールを送り打者走者をアウトにしていった。どのポジションのプレーヤーも、同じように落ち着いて、普段の練習通りの守備力を披露したのである。このチームがエラーから失点したのは前述した1プレーのみ。終盤、相手の追い上げに点差を詰められるシーンもあったが、見事に逃げ切り勝利を収めた。

 “守備はやった分だけ上手くなる” とよく言われる。ただ。一口に守備練習と言っても様々なメニューがある。内外野のノック、外野からの中継プレー、投内連係、バント処理、牽制プレー(ピックオフプレー)等々。どこにポイントを置くかは、選手の力量を見極めた上でチームを預かる監督さんの判断に委ねられる。ただ、どのチームの指揮官も、試合前にお話を伺うと異口同音に “野球にエラーはつきもの。出てしまう事は仕方がない。問題は、ミスを重ねない事。連続エラーをしない事、そこが重要なんです” と、ご自身のお考えを述べられる。防げないものと防げるもの。エラーにはこの2種類が存在する、と店主はその意図を汲み取った。前者は捕球エラー、後者はスローイングエラー。極論すればこんな図式になる。痛烈な打球やイレギュラーバウンドなど、捕球時には不確定要素が絡んでくる。だから予測の範囲を超えると、そこにミスが生まれる。人間がやっている以上、仕方のないことだと思う。しかし。その後は。スローイングに関しては、プレーヤーが自らの意思でコントロールできるもの。だからこそ。徹底的に鍛え上げればミスは減る。ミスが減れば失点の確率が下がる。相手に得点されなければ自軍が勝利するチャンスが広がる。至極理にかなった考え方だと思う。

受け継がれる想い、まだ見ぬ景色へ!

 106回大会の中で、このチームは過去最高位タイとなる4回戦まで駒を進めた。全ての地方予選がそうであるように、4回戦以降ともなれば、勝ち残った猛者たちとの対戦に挑まなければならない。避けては通れぬ厳しい戦いに頂への上り坂は一気に険しくなる。加えて、近年の猛暑、酷暑、炎暑が選手たちの体力を容赦なく奪っていく。過酷ともいえる環境の中、球児たちは自らの明日を信じて、ただひたすら白球を追い続ける。残念ながら、過去最高位に並んだところで、彼らの2024年夏は幕を下ろした。だが、悔しい想いをしたその瞬間から、更なる高みを目指し、新チームの胎動は始まる。飽くなき挑戦へのモチベーションが消えてなくなる事はない。新たな世代へと引き継がれ、永遠に続いていく。それこそが、観る者の胸を熱くさせる高校野球最大の魅力の一つなのかもしれない。

 一つ一つの試合、打席、守備機会、全てが経験値となりプレーごとに成長曲線が描かれていく夏の大会。惜しくも敗れてしまったチームの3年生は、自身の高校野球にピリオドを打つ事となった。しかし、その想いや共に戦った夏の記憶は受け継がれ、担い手となる2年生以下の後輩たちには大きな財産となって新たなチームの核が形作られていく。秋の大会で朧気ながらもその輪郭が見えてきたならば、次のステップへ駆け上がり、春以降の大きな飛躍につながっていくと店主は考える。理論派の監督さんが描く青写真と選手たちの姿がシンクロを始めた時、新たな大航海への船出は前途洋々とした希望に満ち溢れたものになるだろう。

 間もなく開幕する甲子園大会。地方予選を勝ち抜いた49代表の選手の皆さんには日ごろの成果を存分に発揮して、最高の舞台でベストのパフォーマンスを全力でやり切って欲しい。その一方で。敗れざる者たちの次世代には、代々の想いや絆の強さが沁み込んだ襷が手渡された。下級生に託された、叶える事が出来なかった先輩たちの夢。その一つ一つが、同じユニフォームを纏いし者たちの心に明確なビジョンを投影し、次なる戦いへの道標となる。伝統の重みとは、そんな風に形作られていくのだろうと店主は考える。胸に刻まれた伝統はやがて母校の、そして自らの誇りへと姿と変え、苦しい練習や試合を乗り切るための拠り所となっていく。

 爽やかな一陣の風となって店主の心を駆け抜けた“そのチーム”と監督さん。秋を経て冬を耐え、持てる力の種が芽吹かれるであろう2025年の躍動に年甲斐もなく胸がときめいた。かつての野球小僧は今、想像の翼を力いっぱい広げて彼らの逞しく成長した姿に想いを馳せ、この文章を認めている。

ウルスポをフォローしよう

この記事をシェア

この記事を書いた人

n.b.c.k.703のアバター n.b.c.k.703 フリーランス/スポーツアナウンサー・MLB Journalist

1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV)
1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当
琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中
スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA)
他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり
MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)

コメント

コメントする

top
目次
閉じる